人気ブログランキング | 話題のタグを見る
NEW POST

ボス

ボス_c0229584_17183598.jpg


以前ドイツ南部の会社で14年間勤めていたことがあります。二つの課で仕事をしていたのですが、どちらの課の上司もとてもよくしてくれました。写真に写ってるのは後で移った課の上司。私はそこで日本の特許の翻訳等をしていました。

この上司のN氏はとっても個性的で今時珍しいぐらい人の好い人でした。同僚の話では、ある日の朝いくら待っても彼がやってこないので、どうしたんだろうと思っていたら、出勤の途中でトラムで向かい合わせに座っていた見知らぬおばあさんと話している内に何かの事情を知り、町を案内してあげていたそうです。

彼に因む愉快なエピソードもたくさんあります。翻訳でホワイトボードが何なのか分からなかった時彼に尋ねると、ちょっと来てごらんと言うので、彼に付いて行くと、数室先の会議室の前にやってきました。ランプが点いてるので、今会議中だなと思ったのですが、彼は何とドアをパッと開け、部屋の前にあるホワイトボードを指差して、これがホワイトボードだよと言うのです。会議室に座ってた人は皆こちらを振り返って口をぽかーんと開けて見てましたわ。N氏はそれを気にかけることもなく、失敬と言っただけで、またドアを閉めて自分の課へと戻ってきました。

昼食には社員食堂にいつもN氏ともう一人彼の助手にあたる同僚の男性と一緒に食べに行ってたのですが、食事の後で会社の敷地内をぐるりと散歩していたものです。私を中に挟んでN氏が同僚と仕事の話をしているので、話し易いように私は端に移ろうとするのですが、N氏はしきりに止めるのです。私が彼と同僚の間にいた方が守れるからって。守るたって、ここは会社の安全な明るい敷地内ですよ!(笑) 彼は紳士なのです。そう言えば朝会社への道で会った時も、彼は必ず道路側に立って私の横を歩いて行くのです。

彼は釣りが何よりも好きで釣りのクラブの会長もやってたぐらいです。また食堂の話になるんですが、ある日彼と二人で食べに行った時、団子が食べきれなくて残したんですが、それを見ていたN氏がそれをくれないかと言うのです。私は、えっと驚きましたが、釣りの餌にしたいと言うのです。いいですよと言うと、持っていたティッシュペーパーを出して包もうとするのですが、傍のテーブルの人が見てるじゃないですか、何だか誤解されそうだなあ、恥ずかしいなあなんて思ってたのですが、N氏は人の視線は気にかけることなく、団子を丁寧に包んでましたわ。

個性的な魅力をそなえているだけでなく包容力のあるN氏には色々支えてもらって助けになってもらいました。同僚との関係でうまくいかなかった時も彼はかしこく解決してくれました。愛すべき上司です。彼の元で働くことができたことは幸せだと思っています。もうとっくに退職してるけれど、今どうしてるのかなあ。釣りのクラブでいざこざがあった時、誰かをかばって会長を辞めたというような事を聞いた事があるけれど。。。今は70歳を越えた年齢になってるでしょう。お元気でいらっしゃることを望んでます。ずっと以前いつか電話をした時に、ユニークな彼の事を本に書きたいと言うと喜んでいたけれど、本はまだ書いてません。こうやってブログに書いてることを知ったら、喜んでくれるかな。
by honeyfire | 2010-10-23 17:24 | ふれあい