人気ブログランキング | 話題のタグを見る
NEW POST

女神アテナの立像

女神アテナの立像_c0229584_1791642.jpg


以前仕事の研修で一ヶ月程ミュンヒェンに滞在していたことがありました。その間ホテルに宿泊していたわけですが、研修の合間にゆっくりとミュンヒェンを満喫する機会を持てました。季節は秋。黄葉の真っ盛り。ホテルから歩いて行ける距離に数々の美術館や博物館がありました。今はどうなのか知らないけど、当時ミュンヒェンには、日曜日には美術館や博物館等の公的施設の入場料が無料になるという有難い制度があったので、それを利用して、黄葉した落ち葉の絨毯を歩きながら美術館巡りをしたものです。

あの時の秋のひとときが今でも鮮やかな印象で思い出に残っています。清々しく澄みわたった青い大空。金色の落ち葉の絨毯を踏むと、かさかさと乾いた音が快く鳴り、落ち葉のささやきに耳を傾けながら、ゆっくりと歩を進めていました。抜けるような青空の下、柔らかな陽光を浴びながら、金色の落ち葉の絨毯の上を歩いているだけで、なんとも言えず幸せで、この上なく贅沢なように感じられました。

訪れた美術館の一つに古代ギリシャ、ローマ時代の彫刻が展示されてあるグリュプトテーク美術館というのがあります。青々とした芝生が広がっている広場の両側に白っぽいギリシャ神殿風の建物が二館向かい合って建っていて、一つは古代美術博物館で、もう一つは、古代ギリシャ、ローマ時代の彫刻が展示されてるグリュプトテーク美術館です。

館内に入ると、装飾が施されたギリシャ神殿の門の一部が眼に入りました。数千年の歳月を経てきた石の薄ピンクの柔らかな色調を見ていると、訳も無くなつかしい情感がわいてきて、しばらくその門の前に佇んでいました。石は冷たいはずなのに温もりを放っているようでした。

ギリシャやローマの様々な堂々たる神々の像が並んでいる中でとりわけ心引かれたのは、片手に槍を捧げ持ち、もう一方の手に一輪の花を優しく提げている厳粛さと高貴な美を放った女神パラス・アテナの大理石の立像でした。静寂の中に躍動感を感じさせる。二千四百年という歳月を通して変わらない活き活きとした力強い存在感。大理石の女神アテナの姿全体にまるでいのちが受肉して息づいているような美しさが感じられました。紀元前四世紀に形造られた女神像の前に佇んでいると、天と地が和合したような力がみなぎっているようで、神聖な力は物質の中にも合唱舞踊しているように感じられました。

薄明るい冷んやりとしたグリュプトテーク美術館の中から出てくると、空の青さが一層まぶしかったです。
by honeyfire | 2012-10-24 17:08 | 思い出