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ヴェネツィアの小路

最近日本から送ってもらった須賀敦子の「地図のない道」という本に、1974年にノーベル文学賞を受賞したロシアの詩人であり随筆家であるヨシフ・ブロツキー(1940・1996)について少し書かれていました。このロシアの作家に興味を引かれて購入した随筆集を1冊読み終わったところです。ヨシフ・ブロツキーはソ連時代に国内流刑および強制労働も経験しており、1972年には国外追放され、アメリカに渡ってからは幾つかの大学で文学を教えていました。

このロシアの詩人は冬のヴェネツィアが好きで、よくこの季節に訪れていたそうですが、この随筆集はヴェネツィアの印象を綴ったものです。冬の陰鬱な光景について書かれているのにも関わらず、流れるような文調で、五感で感じ取った新鮮な描写が活きています。

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私はヴェネツィアを2度訪れたことがあります。ヴェネツィアは町全体が華麗な劇場の舞台のような美しい町です。町を二分するように大きな運河が緩やかに蛇行していて、小さな運河が網目のように町中に張り巡らされています。車は通れません。移動する時は、徒歩で行くか、ボートを使います。

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運河にはエレガントなラインの黒いゴンドラがたくさん浮かんでいて観光客を誘っています。ゴンドラにはよく歌い手が同乗している時もあって、時にはゴンドラを操っているゴンドリエーレ(船頭)自身が歌が上手で、ヴェネツィアの町を歩いていると、オー・ソーレ・ミーオをはじめとするカンツォーネを高らかに歌う美声がよく響き渡ってきます。それはヴェネツィアを巡る楽しみの一つでもあります。

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ヴェネツィアでもう一つ楽しいことは、迷路のような小路を巡ることです。まるで古いイタリア映画の場面に紛れ込んだような情趣があります。でも私は一度このヴェネツィアの小路で迷いそうになったことがあるのですよね。以前、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、カプリ島、ソレント、ポンペイ、アッシジ、ラベンナ、リド、ヴェネツィアへとバスで巡る5日間のイタリア周遊旅行に独りで参加したことがありました。最後の目的地ヴェネツィアでは2時間ほど自由時間があったのですが、私は独りで夢中になって小路を巡って楽しんでいました。

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いつも横の方にちらちら見え隠れしている大きな運河カナール・グランデを目印にしていたので、戻る時は、このカナール・グランデに沿っていけば、直ぐに戻れるはずだと高を括っていたのですね。でも集合時間が近付いてきたので、戻ろうとして、困惑してしまいました。目印にしていたカナール・グランデの方に行ったのはいいけれど、度々袋小路になっていて、道が繋がっていなかったのです。それで別の道を取るわけですが、そこでもまた袋小路に出くわしてしまう。進んでいく内に、向かいたい方向からどんどん離れていくような感じでした。見覚えのない淋しい所にまで来てしまい、集合時間は迫ってくるし、もう焦りました。焦ったのには理由がありました。フィレンツェでの自由時間の集合時間に戻ってこなかった人がいて、バスはその人を待たずに行ってしまったのですから。その人は幸い、フィレンツェ内のバスの次の目的地で待ってましたけど。集合時間に間に合わなくてバスが行ってしまうと困るので、速足で道を懸命に探しましたよ。やっと集合場所の広場の方向を示す矢印を見つけ、やがて人通りの多い通りに出て、集合場所にたどり着いた時は安堵しましたが、もう汗びっしょりでした。

二度目には夫と一緒にヴェネツィアを訪れました。7月の末だったので、ものすごく蒸し暑かったのを覚えています。午後にはもう外に出られないほどの猛暑でした。でも数日ゆっくり滞在して、ヴェネツィアの光沢のあるビロードのような美しい夜景を満喫できました。ヴェネツィアは夜が殊に魅惑的なのですよね。控えめな照明に照らされた象牙細工のような優雅な建物は美しく、運河にその姿を映している様にはうっとりしてしまいます。

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by honeyfire | 2010-02-26 19:44 | 旅(国外)